岐阜地方裁判所 平成8年(行ウ)11号 判決 2000年8月02日
主文
一 被告らは、大垣市に対し、それぞれ金六七〇万五四一〇円及びこれに対する平成七年一一月三〇日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 訴訟費用は被告らの負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 主文一項と同旨
2 主文二項と同旨
3 1項につき仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 当事者
(一) 原告は、岐阜県大垣市(以下「大垣市」という。)の住民である。
(二) 平成七年当時、被告Aは大垣市長であった者、被告Bは同市収入役であった者、被告Cは同市総務部長であった者である。
2 本件支出
大垣市は、平成七年一一月三〇日、同市内に存在する納税貯蓄組合(郭町一丁目納税貯蓄組合外四一一組合。以下「組合」という。)に対し、平成七年四月から九月までの納税貯蓄組合補助金として合計六七〇万五四一〇円(以下「本件補助金」という。)を支出した(以下「本件支出」という。)。
3 本件支出の違法性
(一) 本件支出は、大垣市納税貯蓄組合補助金交付規則(本件支出当時の名称である。その後平成八年一〇月に大垣市納税組合補助金規則と名称変更され、同年一二月廃止された。以下「大垣市規則」という。)に基づきなされたものである。
大垣市規則によると、一世帯又は一法人あたり一〇〇円の割合で組合事務補助金が支払われるとともに、納期内納税率に応じて納税奨励補助金(納期内納税率一〇〇パーセントの場合、納税額の二パーセント、同九五パーセント以上一〇〇パーセント未満の場合、納税額の一パーセント)が支払われることになっている。
しかも、大垣市規則には、補助金交付申請書の提出及びその記載内容に関する規定が存在しない。
(二) しかし、納税貯蓄組合法(以下単に「法」という。)一〇条一項は補助金の交付目的を事務費を補うためと規定するとともに、同条二項において組合の役員又は組合員の報酬の支払に充てるために補助金を交付することを禁止し、補助金の交付目的を組合の事務費の補助に限定している。
そして、それを達成するため、同法施行令四条一項一号は、組合が補助金の交付を受けようとするときは費用の金額及びその費途別の内訳を記載した補助金交付申請書を提出するよう義務づけている。
(三) 法の目的は「納税貯蓄組合の健全な発達を図り、もって租税の容易且つ確実な納付に資せしめること(第一条)」であり、法が国又は地方公共団体の財政の健全化の観点から、補助金の目的を限定し、補助金交付申請書の提出を義務付けるなど厳格に規制したものである。
組合に対する補助金の交付は、これら法令の規定する要件を充足する場合に認められるものであり、補助金交付の要件を法よりも緩やかにした大垣市規則は法一〇条及び同法施行令の規定に違反し違法であり、大垣市規則に基づく補助金の交付は違法である。
したがって、組合に対する補助金外一〇七五万円を計上した平成七年度の大垣市予算(以下「本件予算」という。)に関する議会の議決(以下「本件予算決議」という。)もその限りにおいて違法であり、違法な大垣市規則及び本件予算決議に従って実施された本件支出も違法である。
(四) 被告らの主張について
(1) 組合が納税貯蓄組合法に基づかない任意団体になったとの主張は争う。
被告ら主張の大垣市規則の改正は、補助金の算定根拠を変更し、補助金交付申請書の提出規定を削除したにすぎないものであって、組合の実態にはなんの変更もない。また、法に基づく納税貯蓄組合を任意団体に変更するには、法一三条に基づく解散の届出が必要であり、更に納税貯蓄組合でないものが納税貯蓄組合の名称を使用することも法一四条で罰則をもって禁止されているところ、大垣市の組合中に右解散届出の手続をした組合はないし、これら組合は、本訴提起後まで納税貯蓄組合の名称を使用していた。
(2) 本件規則、本件予算決議の違法性は本件支出に承継されないとの主張は争う。
ア 本件支出の根拠となったのは、大垣市規則であり、これは地方自治法一五条に基づき執行機関である地方自治法の首長がみずから制定・改廃できるものであり、被告らには納税貯蓄組合法に反する大垣市規則を改廃する義務があった。本件では、執行機関がみずから作成した違法な規則にしたがって本件支出が行なわれたことの違法性が問われるべきであって、本件予算決議の存在は、右行為の違法性を検討するうえで問題とされるべきではない。
イ 仮に本件予算決議が問題となるとしても、大垣市規則自体が違法である以上、本件予算決議もその限りにおいて違法であるところ、本件では、法一〇条に違反する右決議の違法性は重大かつ明白であり、また地方自治体の首長は予算の適法性を独自に判断すべき義務があるから(地方自治法一七七条参照)、本件支出は本件予算決議の違法性を承継するものであって、同決議によって被告らの責任が否定されるものではない。
4 被告らの責任
(一) 被告らの本件支出に対する関与
被告らは、以下のとおり本件支出の手続を担当した者である。
(1) 被告Aは、市長として、平成七年一〇月三一日、主管課である大垣市の総務部収納課から、本件補助金を交付することなどについての決済を求められ、その旨決定した。
(2) 被告Cは、総務部長として、大垣市事務専決規程に基づき、本件補助金の支出負担行為について被告Aに代わって専決した。
(3) 被告Bは、収入役として、支出命令の審査をした上、平成七年一一月三〇日、四一二組合に対し、本件補助金の口座振込を実施して、これを支出した。
(二) 被告らの重過失
(1) 法一〇条一項の規定が存在し、補助金の使途・交付要件を厳格に規制していること、それゆえ、本件支出が違法であることは、当然のことながら被告らにおいて容易に知りえ、又は知りうべき事柄であった。
(2) また、本件支出以前の平成三年に他の地方公共団体でも本件と同様の住民訴訟が提起されており、同事件の被告及び当該地方公共団体が支出の違法性を認めて訴訟は取下げによって終了した。したがって、遅くともこの訴訟の終了した平成四年には、被告らは納税貯蓄組合法に基づかない組合への補助金支出が違法であることを認識し得たものであって、被告らには重過失がある。
5 原告の監査請求の前置
原告は、平成七年五月一三日、本件支出につき、大垣市監査委員会に対し、地方自治法二四二条一項に基づく監査請求をしたところ、同委員会は同年七月一日、原告の監査請求を棄却する旨の決定をし、同日原告に通知した。
6 結論
したがって、大垣市は、同市長であった被告Aに対し、補助金交付相当額の不法行為(民法七〇九条)に基づく損害賠償請求権を有するとともに、大垣市収入役であった被告B及び大垣市総務部長であった被告Cに対し、補助金交付相当額の地方自治法二四三条の二第一項に基づく損害賠償請求権を有しているところ、大垣市は、被告らに右請求権を行使していない。
よって、原告は、地方自治法二四二条の二第一項四号前段に基づき、大垣市に代位して、被告らに対し、本件補助金相当額六七〇万五四一〇円及びこれに対する弁済期の翌日である平成七年一一月三〇日から完済に至るまでの年五分の割合による遅延損害金を大垣市に支払うよう求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1(一)(二)及び2の各事実は認めるが、組合が納税貯蓄組合法に基づくものであることは否認する。
2(一) 同3(一)、(二)は認める。
(二) 同3(三)は争う。本件補助金は、組合の健全な発達と市税の容易かつ確実な納付を図るという公益に資するものであるから、その支出は地方自治法二三二条の二の「公益を図る必要がある場合」に当たり適法である。
組合の性質の変化本件支出当時、組合は、納税貯蓄組合法に基づかない任意の納税組合となっていたから、法一〇条の適用はなく、本件支出に違法性はない。
(1) すなわち、昭和二六年の法等の施行に伴い、大垣市でも大垣市規則を定めて納税奨励補助金や組合奨励補助金などの制度を設け、組合から補助金交付申請書の提出を受けて補助金を支出していたが、その後、奨励補助金の引上げや、補助金が機械的に計算できるようになったことから、まず昭和四一年四月の改正で、大垣市規則から右申請書の規定が削除された。
(2) 次いで、昭和五一年には納税奨励補助金の一部が廃止され、昭和六二年にはプライバシー保護の観点から納税通知書が直接納税者に郵送されるようになったことに伴い、納税通知書の配布についての組合奨励補助金が廃止された。
(3) 更に、平成五年には納税奨励額を縮小するとともに、大垣市規定から組合が納税貯蓄組合法に根拠を置く旨の規定を削除し、同法に基づかない組合であることが明確になったものである。
(4) これら改正によって、大垣市における組合の実態は、法に基づく納税組合から法に基づかない任意の納税組合に変化したものと解される。したがって、大垣市規則による補助金の交付は、法一〇条に基づくものでなくなり、地方自治法二三二条の二、大垣市補助金等交付規則に基づき、大垣市が組合の健全な発達と市税の容易かつ確実な納付を図るという公益上の必要性を認めて交付することになったものであって、これに違法性はない。
(四) 本件予算決議の拘束性
本件支出は、大垣市規則及び本件予算決議を原因としてなされたものであるが、仮に右規則及び予算決議に違法性があったとしても、その違法性は本件支出に承継されない。
(1) すなわち、先行行為の違法性が後行の財務会計行為に承継されるためには、先行行為が著しく合理性を欠き、そのためにこれに予算執行の適正確保の見地から看過し得ない瑕疵がある場合に限られるところ(最高裁平成四年一二月一五日判決参照)、本件予算決議には、右のような瑕疵があるとはいえないから、被告らにはその内容に従って財務会計上の措置を採るべき義務があるのであって、本件支出自体に財務会計法規上の義務に違反する違法性があるということはできない。
(2) 仮に、被告らが本件予算の執行を拒まなければならないとすると、予算の執行の適正確保が図られないことになるのであって、被告らには、本件予算決議そのものが違法であるとの判断を軽々に下すことができないから、被告らが本件支出をしたことに違法性はない。
3(一) 請求原因4(一)はいずれも認める。
(二) 同(二)は争う。
4 請求原因5の事実は認める。
第三証拠
本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。
理由
一 大垣市規則の違法性について
1 法一〇条一項は、「国又は地方公共団体は、納税貯蓄組合に対し、組合の事務に必要な使用人の給料、帳簿書類の購入費、事務所の使用料その他欠くことができない事務費を補うため、予算の範囲内において補助金を支出することができる。但し、国及び地方公共団体が交付する補助金の合計額は、組合が使用した当該費用の金額をこえてはならない。」と規定し、同条三項を受けた同法施行令四条一項一号は、「組合は、法一〇条一項による国又は地方公共団体の補助金の交付を受けようとするときは、毎年一〇月から翌年九月までの分について、当該期間内に使用した同項の費用の金額及びその費途別の内訳を記載した補助金交付申請書を、その年一〇月末日までに当該組合の規約の届出をした税務署長を経由して当該組合の主たる事務所の所在地を管轄する国税局長に、又は当該補助金の交付を受けようとする地方公共団体の長に提出しなければならない。」と規定している。
法及び同法施行令の右各規定は、国又は地方公共団体が納税貯蓄組合に交付することができる補助金の対象の範囲及び限度額並びにその交付手続を明確にし、もって国又は地方公共団体の財政の健全性を維持しようとする趣旨に出たものであり、納税貯蓄組合に対し実際に要した事務費を超えまたその補填を図る以外の目的で補助金を交付することを禁止していると解されるのであって、国又は地方公共団体は、これら各規定に違反して補助金を交付することが許されないものというべきである。
2 そこで、本件補助金の内容について検討するに、前記争いのない事実に加え、証拠(乙四、乙五、乙六の六の一ないし三、乙六の七ないし一四)によれば、平成七年一一月三〇日当時の大垣市規則は、その七条一項で、補助金の種類を、組合事務補助金及び納税奨励補助金と規定するとともに、その内容を、組合事務補助金については、一世帯又は一法人につき一〇〇円、納税奨励補助金については、納期内納税率が一〇〇パーセントの場合、納税額の二パーセント、同九五パーセント以上一〇〇パーセント未満の場合、納税額の一パーセントと定め、また同条二項で、「納税奨励補助金の納税額は、一の納税者にかかる一納期毎の納税額が一〇万円を超えるときは、これを一〇万円として計算する」旨規定するほか、同条三項では、「市長は、第一項に定めるもののほか組合及び納税貯蓄組合連合会に必要と認める場合は、別に補助金を交付することができる。」と規定しているが、他方、右規則が組合の事務に欠くことのできない事務費を補うことを右各補助金の支給の要件としておらず、それらの補助金の支出額について組合の使用した右事務費の金額を超えてはならないとの制限も設けていないこと、また、当該期間内に使用した右事務費の金額及びその費途別の内訳を記載した補助金交付申請書の提出を求める規定が存在しないこと、以上の事実が認められる。
そうすると、右規則は、法一〇条一項、三項、施行令四条一項一号の要件とかかわりなく、独自の基準により、組合への補助金支給を認めるものであり、法一〇条一項が定める事務費補填の目的以外の目的をもってする補助金ないし事務費の範囲を超える補助金を許容するものであるから、それらの法令に反し、違法というべきである。
3 右に対し、被告らは、大垣市規則では当初補助金交付申請書の提出を義務づけられていたところ、昭和四一年の全部改正で右交付申請書の提出を求める規定が削除されたこと、平成五年改正で組合について「納税貯蓄組合法に基づく」との文言が削除されたことなどによって、大垣市の組合は納税貯蓄組合法に基づく組合から同法に基づかない任意の納税組合に変化したのであるから、本件補助金の支出は、納税貯蓄組合法に根拠を有するものではなく、組合の健全な発達と市税の容易かつ確実な納付を図るという公益に資するものであるから、地方自治法二三二条の二の「公益を図る必要がある場合」にあたり、適法であると主張する。
4 しかしながら、法一二条、一四条一号は、納税貯蓄組合でない者が納税貯蓄組合の名称を使用することを禁じ、その違反に対し過料を科す旨規定しており、また法一三条は、納税貯蓄組合が解散したときは、組合の代表者が規約の届出をした税務署長及び地方公共団体の長に届出をしなければならない旨規約しているところ、証拠(乙二八、証人D)によれば、大垣市規則の平成五年改正後も平成八年一〇月までは組合が納税貯蓄組合という名称を用いていたこと、右規則の平成五年改正にあたり、組合の代表者等が税務署長及び大垣市長に対して納税貯蓄組合を解散したとの届出をしていないことが認められるから、容易に被告らの主張を援用して大垣市規則の昭和四一年及び平成五年の改正などにより、組合が任意の納税組合に変化したとは認められず、組合に対する本件補助金の交付にも法一〇条一項等の適用が及ぶと認められる。
また、地方公共団体が地方自治法二三二条の二の規定の「公益上必要がある場合」に広く組合に対する補助金を交付しうるとすれば、法が、国又は地方公共団体の財政の健全化の観点から、組合の事務に不可欠の費用に限って補助金の交付を認め、その金額は現実に使用した金額を限度とするとして組合に対する補助金の交付に具体的な制限を設けた趣旨が損なわれることも明らかである。したがって、同条を根拠として組合に対する補助金を交付することは許されないといわなければならない。
更に、前記認定の事実によれば、大垣市の二種の補助金のうち、納税奨励補助金は、市税の完納に対する報奨金としての性格を有するものと解されるところ、現行法上、このような報奨金を定めたものとしては、地方税法四一条一項、三二一条二項、三六五条、七〇二条の八第一項が存在し、それぞれ、個人が都道府県民税、市町村民税、固定資産税及び都市計画税を納期前に納付した場合に、条例の定めにより報奨金を交付する旨を規定している(なお、都市計画税については、固定資産税との合算額による)。そして、これらの報奨金は、納期前納付に対する代償としてとくに交付する趣旨であるとみるのが相当であることからすると、地方公共団体が、納期内納税率が一定の割合以上であるということのみで、支給が認められる補助金を独自に創設しうるとすることは、地方税法の趣旨に反するものといわざるを得ない。
5 以上のように、本件規則は、法一〇条一項、三項、施行令四条一項一号の補助金交付の要件とかかわりなく、独自の基準により補助金の支給を認めるものであるから、右法令に反するものとして違法といわざるを得ない。
二 本件支出の違法性について
1 右一を前提に、大垣市規則に基づく本件支出の違法性について検討する。
大垣市規則が違法であることは前記のとおりである。そして、大垣市規則は、地方自治法一五条に基づき、大垣市長がその権限に基づき制定した規則であるから、大垣市長は、同条に基づき、これをを改廃する権限と義務を有している。したがって、大垣市長は、違法な大垣市規則を改廃する権限と義務を負うものであるから、既存の規則に基づく支出であることをもって本件支出を適法であると主張することはできない。
2 つぎに、被告らは、本件予算決議が存在する以上、被告らはこれに従って本件補助金を交付する財務会計法規上の義務があったから、本件の支出には被告らの職務上負担する財務会計法規上の義務違反はない旨主張している。
しかし、大垣市規則自体が法一〇条に違反して違法であるから、本件予算決議もその限りにおいて違法であり、著しく合理性を欠きそのため予算執行の適正確保の見地から看過し得ないものといわざるをえない。
また、被告Aには、地方公共団体の長として、予算を調整し議会に提出する権能があり(地方自治法一四九条二号、二一一条一項)、また被告Bには、収入役として、法令の特別の定めがある場合を除いて大垣市の会計事務をつかさどる権能があって(同法一七〇条一項)、これに基づいて予算の調整につき被告Aを補助する立場にあり、被告Cも総務部長として、同様の補助的立場にあったというべきである。したがって、被告らは、適切な予算を調整・提出する権能と義務を有していたのであり、被告らが適切に右権能を行使すれば、違法な本件予算決議に至ることはなかったというべきである。
以上のことから判断すると、本件予算決議が存在することによって本件支出が違法ではないということはできない。よって、被告らの主張は容易に採用することができない。
三 被告らの責任について
1 被告C及び被告Bについて
地方自治法二四三条の二第一項によれば、収入役や支出負担行為をする権限を有する職員が故意又は重大な過失により法令の規定に違反して当該行為をしたことにより普通地方公共団体に損害を与えたとき、これによって生じた損害を賠償しなければならないと規定している。
前記争いのない事実によると、被告Cは大垣市総務部長として本件支出負担行為を専決し、被告Bは大垣市収入役として本件支出を行ったことが認められ、被告Cは前記法条の支出負担行為をする権限を有する職員に、被告Bは収入役に該当する。
そして、前記のとおり、本件支出は大垣市規則に基づくものであるところ、同規則は補助金の使途、交付要件を厳格に規制した法一〇条一項等の規定に違反して違法であり、その違法は同法を検討すれば容易にこれを知ることができるものであるから、これを看過した被告C及び同Bは重大な過失により、大垣市に補助金交付相当額の損害を与えたことが認められる。
2 被告Aについて
地方公共団体の長については地方自治法二四三条の二の適用がないと解されるが、当該長に民法上の不法行為責任があれば、当該長は地方公共団体に対し損害賠償義務がある。
被告Aは大垣市長として補助金の交付自体を決定したことは当事者間に争いがなく、前記認定によれば、被告Aは違法な本件補助金について支出決定をしてはならない注意義務があるにもかかわらずこれを怠り支出決定をした過失により、大垣市に補助金交付相当額の損害を与えたことが認められる。
3 したがって、被告B及び同Cは地方自治法上の損害賠償責任を、そして、被告Aは民法上の損害賠償責任を、それぞれ大垣市に対して負担するところ、補助金交付相当額は六七〇万五四一〇円であるから、被告らは、本件支出により大垣市の被った右損害を、各自賠償すべき義務があるというべきである。
四 結論
以上によれば、原告の請求の原因6項記載の本訴請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用につき民訴法六一条、六四条本文、同但書を適用して、主文のとおり判決する。なお、仮執行宣言については、相当でないからこれを付さないこととする。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 青山邦夫 裁判官 夏目明徳 裁判官 細野高広)